動物との共生を考える連絡会主催シンポジウム 「児童虐待と動物虐待 〜 類似性と共通性」

6月19日、都市センターホテルの、日本動物病院協会福祉協会2005年年次大会会場において、

動物との共生を考える連絡会の主催によりシンポジウムが開催されました。

今回は、児童虐待と動物虐待との類似性と共通性をテーマとして取り上げ、

(社福)子どもの虐待防止センター専任相談員 石川ゆう先生、ペット研究会「互」主宰 山崎恵子先生、

日本動物福祉協会の山口千津子獣医師相談員の3名がパネリストとして壇上に上がりました。

たいへん多くの方がこのテーマに興味を持って下さり、参加者が200名を越える大盛況となりました。

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◆ 石川 ゆう((社福)子どもの虐待防止センター専任相談員) ◆

児童虐待と動物虐待については、家庭内で起こっているという点では本当に同じという感じを持った。

どんな相談を受けているか、虐待が起こっている家族にどうアプローチしていったらいいのかという話については、

動物についてもオーバーラップしているものがたくさんあると思うので、それについてヒントを持っていただけるとうれしい。
 1991年の開始当初から、子供がかわいくない、叩いてしまう、こんな思いを持つのは自分だけなのだろうかという母親

たちからの電話がひっきりなしにかかって来た。新聞、テレビ等で目にするのは、子供が死亡して親が逮捕・起訴される

という事件が多いが、それは氷山の一角。育児に対する不安も含めて、母親たちが子供に対してどう接したらいいか

わからず、イライラしてしまう。子供の顔も見たくないといった状況。今はそれが本当の現実だ。子供を産んだから親になる

のではなく、育児をしていく中で、親としての感性が徐々に育まれていく。産み落としただけで、いいお母さんを期待される

と、行き詰ってしまう。今、児童虐待については法律的な定義では大まかに言って4つに分かれている。

1つが、体への暴力。2番目が性的な虐待。3番目にネグレクト。これは保護者としての看護を怠ること。

4番目に心理的な虐待。これは言葉の暴力が一番多い。

虐待防止法の3年後の見直しで、心理的虐待の中にもう1つつけ加えられたのがドメスティックバイオレンス(DV)の目撃。

この4つの虐待は、単独で存在するだけでなくクロスする。
心理的な虐待というのは、実は体に対する暴力よりも予後がよくないと言われている。
平成12年の厚生労働省からのデータでは、4つの分類の中で、身体的虐待が49%で断トツだが、実は身体的虐待は

見えやすい。ネグレクトが見えにくいので統計として上がっていないだけだろう。

虐待の加害者の統計では、実母が61%。母親が圧倒的に養育時間が長いためだろう。

平成17年、死亡した子を後で検証したら、死亡に至らしめた親というのは半分が実母だった。
虐待が発生しやすい条件としては、4つが挙げられる。

1つは、親の側の問題。もう1つは子供の問題。3番目が生活上のストレス。それと似たような形での社会的な孤立。
ずっと虐待的な環境に置かれ、不適切な環境の中に適応した子供は、適切な環境には不適応を起こしてしまう。
虐待かどうかというのは、子供の視点で見て不適切な養育がどうかが一番大きなポイントだと思う。
虐待のある家族に対するサポートは早ければ早いほどいいのではないか。

子供が思春期以降になると、やはり家族へのサポートもとても大変になるので、いろいろな機関がサポートするのが早い

ほど、やはりその家庭が少しずつ家族の機能を高めていくことができる。

重構造を持った複数の機関が平等な状態で共通の認識を持ちながら、1つの家族の中で今何が必要か、今、主として

どこの機関のサポートが必要かと考えていくことがとても大事だと思う。

 

◆ 山口 千津子 ((社)日本動物福祉協会 獣医師調査員) ◆

児童虐待と動物虐待とは本当に似ている。福祉協会への相談は、ネグレクトのケースがとても多い。

英国の統計では、20%が身体的虐待で、80%がネグレクトと言われる。ただ、その程度に幅があるので、どの辺で判断

するかによってかなり違う。
児童虐待では、4種類が法律で挙げられているが、日本の動物愛護管理法では、ここまでしっかりと虐待の定義はなされ

ていない。日本の場合は「など」ですべて括られているので、意識の持ち方によっては、なかなか虐待と認識されない。
動物虐待では、4種の虐待を、行為を行うか行わないかによって2つに分けている。
何か行為をすることによって、外傷が生じたり恐怖を覚えたりすることが、積極的・意図的虐待。

なぜ起こるかというと、動物が嫌いとか、鬱憤晴らしのため。それから、しつけと言いつつ、殴る蹴るをするということ。

2つ目が、「しなければならない、与えなければならない行為」を与えない。つまり、ネグレクト。知っていてネグレクトを

やる人もいるが、本当に情報を与えてくれる人がない、あるいは間違った情報を与えられて虐待が起こってしまっている

というケースもある。

また、遺伝性疾患等のある動物と知りながら、繁殖して売れば、生まれた動物は疾患を持ったまま苦しむ。

これも一種の虐待と言えるのではないか。
法律改正にあたって、虐待の定義をできるだけ細かくし、その芽が見えたら、適切なところに通報して、よいほうに変える

ようにできないかと考えた。動物の場合は所有権が強いので、「何しようとおれの勝手だろう」と思っている人がいまだに

多い。動物愛護法では、飼い主に対しても罰則がつくことが、まだまだ知られていない。

死にそうでもその動物を取り上げることができない。どれだけ早期介入をバックアップするシステムをつくり上げられるかが

大切。

動物福祉の基本の、5フリーダムとは何かというと、飢えと渇きからの自由。不快からの自由。痛み、けが、病気からの自由。

恐怖や抑圧からの自由。自然な行動をする自由。

英国では、これをベースに飼い主の指導も行うので、非常にわかりやすい。
虐待があったときに、そこがすべて解決してくれなくても、お互い連絡しあってその状況を改善できる相談のシステムと

連絡網が必要。動物も人間も、福祉の心は一緒と言いたい。

 

◆ 山崎 恵子 (ペット研究会「互」主宰) ◆

児童虐待や動物虐待について、アメリカの中でも先進州と言われているのがコロラド州で、共同でアプローチするチーム

形成などの事例がある。

コロラド州法の中で非常に重要なのは、逮捕権や立ち入り捜査権を持つ役人であるピースオフィサーがいるということ。

動物虐待の疑いがある場合、飼い主と引き離してとりあえず保護できるかなり強い法律がある。

この法律の中で、実際に有罪判決が下ったものに対して、怒りを抑制するものや、その他適切な治療プログラムを受ける

よう命令できる。

児童虐待における母親へのケアも同じ意味合いがあり、虐待をしている者も非常に苦しく、何か治療プログラムに入る道を

開けておくというのは、罰則プラスケアという意味で非常に重要である。
今、いわゆる児童を対象とした性犯罪者の問題が非常に大きく語られているが、同じように暴力や虐待の繰り返しに対して、

コロラド州ではそういう人間のケアも法律の中に入れている。暴力を振るったり、ネグレクトをしてしまう人間を責めるばかり

ではどうしようもなく、その人間の、なぜという部分をもう少し社会が理解しようとする姿勢が必要。
コロラド法の場合、チャイルドアビューズまたはネグレクトの疑いを持った者は報告しなければいけないという法的な義務を

課された専門職のリストは27職あり、その中に獣医師も入っている。

獣医師は、動物虐待が自分のもとに連れ込まれる可能性があることを必ず覚えておきなさいという戒めだと思う。
さらに、コロラドには、DV対応促進チームのようなものがある。DVの加害者になり得る人たちに対して警戒体制をつくり、

ケースの調査や被害者のサポートサービスの情報提供をしあって、プロフェッショナルのチームをつくっている。
日本では、虐待に関して、とにかく一度話しましょうというときに、なかなか動物の場合は所有権が邪魔をして話せない。

子供の場合は親権の強さで話すことができないという、同じような側面がある。

例えば経済的な理由で動物虐待しているのであれば、そこで経済的状況を改善するために人間の福祉の人に一緒に介入

してもらえるような、そういった話し合いの場が、今後日本では絶対に必要になってくる。

日本には、保健所という、1つ屋根の下に獣医師・保健師・医師がおり、ソーシャルワーカーも関連している行政機関がある。

その中でDV対応チームの真似事的なことでもできないだろうか。
今後の課題として、コロラド法までいかなくても、こういうものがあることを念頭に置きながら次のステップを求める市民運動、

あるいは市民の意識改善をやっていっていただきたい。

 

◆  パネルディスカッション ◆

山崎:

実際問題として、動物虐待の場合、どういう人が介入するのか。児童虐待では、現場介入や虐待の評価をする

仕事には、何か資格が必要か。

山口:

日本では、殺傷の場合は警察。ネグレクトの場合は、一般の民間団体が飼い主を説得することもある。

人を説得するには、対応技術を学ぶ必要がある。動物愛護推進員の、技術・知識・コミュニケーション能力には

かなり差があり、コミュニケーション技術に関するような、教育・研修があるとよい。早期介入システムを作っても、

技術がなければきちんと対応できない。

介入メンバーは、民間団体・愛護推進員、そして法的権限が必要な場合、役所との連携プレーの必要が出てくる。

石川:

児童虐待の場合、強制的な力を持っているのは児童相談所だけ。児童福祉士の資格を持った人がその任に

当たっている。

児童相談所の中に心理士、心理判定員もいる。その他、相談員、病院、警察、行政、司法などが関わりを持つ。

児童虐待については資格は何もないと言っていい。児童虐待については誰もが素人で、積み上げて初めて

できてくるもの。

山崎:

対応するスペシャリストがなかなか見当たらないという点で、児童虐待と動物虐待の類似点が出てくる。

次の質問として、しつけと虐待の違いは一体どのようなものか。

山口:

判断の基準は、動物がどのような状況に置かれたかというところだと思う。

石川:

「子供にとって不適切な養育であれば虐待である」と思う。実際に母親への話の中では、しつけと虐待は境目が

ないというような話をする。専門家にとっては、マルトリートメントというのが一つの概念。

山崎:

動物虐待を見かけたらどうするか。

まず動物虐待に関する相談に乗ったり、力になってくれるグループはたくさんあるということを知って欲しい。

山口:

我々は何の法的権限も持っていない。

動物を助ける意味でも、介入する意味でも、日本では役所や警察も含めたネットワーキングが大切。

山崎:

各先生方に幾つか質問を振り分けさせていただいた。

石川:

「虐待をした人から逆に名誉棄損で訴えられる不安があるので行動に移せない」。

法律上、通告者の匿名性を保つことになっている。児童相談所には守秘義務があるので、安心して通告して欲しい。

「周囲が虐待だと思っているのに、当の子供が『虐待じゃない』と本心から言った場合、どちらの意見が尊重される

のか」。周囲が判断してマルトリートメントと思ったときは虐待と思っていい。

山口:

「太り過ぎの肥満は虐待にならないのか」。

英国では虐待。虐待というのは精神的、肉体的に不必要な苦痛を与えているのがポイントで、やはり肥満は

虐待の1つ。

「犬を外には散歩させず、庭やベランダに離すことは虐待に当たるのか」。

犬種によって運動量などは全然違う。その辺を理解して、十分に満足させるだけの運動量が必要。

動物のクオリティ・オブ・ライフを確保するという意味で、散歩はぜひしてほしい。

「ホームレスなど、世話のできない人が動物と暮らすことはネグレクトになるか」。

確かに継続的に十数年その犬を本当に一生幸せにできるかという保証はかなり苦しくなる。ただ、その時点で、

飼い主がきちんとケアをし、精神的にとても密着している場合もある。現状では放置には当たらないと思う。

山崎:

個人的には、自分の明日がわからない人間が命を請け負うことが果たしてフェアだろうかということになってくると

思う。小動物から大きな動物へと動物虐待がエスカレートしていく原因背景。実はエスカレートしていくという

パターンが確立されているわけでもなく、立証されているわけでもない。

「コレクターの心理がわからない、どうしてたくさん飼ってしまうのか知りたい」。

私は精神科医ではないので、どうにもお答えできない。

「獣医さんや、動物や児童に関する仕事をしている方々は、コロラド州の児童虐待の報告義務について

どう思いますか」。

山口: 

報告義務があってもいい。

石川:

虐待防止法で報告義務というのは既にある。ただ、加害という自覚がある親からの相談を受けていると、

報告すると関係を切ってしまうことにもなりかねない。

もう1つ、匿名ということもあるので、報告義務に罰則規定があった場合、虐待防止センターの相談員はどういう

立場をとるのか、いろいろな問題が入り組んでいて、これからの課題。

山崎:

「子供の虐待と動物への虐待は根本が違うのではないか」という指摘が来ている。

命は皆同じと我々は言っているが、ある意味ではそれは偽善でしかない。自分の動物と子供を本当にイコールには

扱えない。だが、根本的に違うのかと言われたら、そうではない。

弱者への救済システムがどのようにつくられるか、弱者に牙を向ける人間の共通項は何か、そういう情報交換は

非常に有効。

以前、子供を虐待する人と、動物を虐待するケアテーカーの共通点という論文が出た。共通項がたくさんある。

そういう意味での比較というのはこれからどんどんやっていきたい。

「日本の動物や児童に関する法律が、他の厳しい国のようになれない理由は何ですか」。

これは多分たくさんある。それは今後、環境省や議員の先生方等を交えて話していかなければならないことだと

思う。今後のファーストストライクキャンペーンに対して、接点をどうやって持っていくかという質問は、連絡会が

情報伝達・交換機関として成り立っているので、今後もコネクションを維持しながら、児童虐待、DVや老人虐待など

に関わる方々と一緒に、メディアや関係者への教育を続けるのが、今唯一できることだと思う。



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